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胡桃9
2009-03-06 Fri 16:24
「酷い事するのね。もしかしたらあのシロウとアーチャーは、仲良くできたかもしれないのに」

「まさか。ヤツがどんな衛宮士郎だろうと、ヤツのサーヴァントがどんな私だろうと――――私とヤツが分かり合う世界など、決して無い」
 
 そうかしら?と間近で微笑するイリヤスフィールの呟きを、アーチャーは無視した。未だぼんやりとした光を放つ携帯を、軽く握り締める。
 
「――――それにしても、平行世界とはな。さて、世界を超えて助けに来てくれそうな相手に心当たりはあるかね? イリヤスフィール」

 冗談めかしたアーチャーの問いに「まさか」とイリヤスフィールは首を振る。当然だ、異なる世界を行き来できるなど、彼の魔法使い以外にありえない。
 「だろうな」と頷いたアーチャーは、ひょいとイリヤスフィールを持ち上げて身を起こした。足を伸ばしたまま、太腿の上に少女を降ろす。
 
「できるだけこちらに身体を寄せろ、イリヤスフィール」

「何をする気? アーチャー」

 きょとんと小首を傾げるイリヤスフィールに、アーチャーは肩を竦めた。
 
「決まっているだろう。助けを呼ぶ事もできんとなれば、手段は一つだ。――――君の言っていたように、この箱を破壊する。」

 上方に手を伸ばし、アーチャーは速やかに自己の内に潜っていった。蓋に指を滑らせその耐久力を解析、これを吹き飛ばすに足る手段を、幾つか思い描く。
 
「…………」

 当然、最大の懸念事項はイリヤスフィールの安全である。彼女の身に万が一のことが起きぬよう、こちらの防御を古の城砦クラスにまで固める必要があった。
 恐らく盾だけでは足りまい。鎧と幾つかの守りを、脳内で吟味していると。
 
「待って、アーチャー。そんなに急がなくってもいいでしょう? まだ、助けが呼べないと決まったわけじゃないわ」

 そんな、ひどく暢気なことをイリヤスフィールは言った。
 
「…………何? 」
 
「おかしな世界と繋がっちゃう電話だけど、それでも繋がらないわけじゃない。だったらもしかして、普通にこの世界のシロウに繋がることもあるかもしれないじゃない」

 小悪魔めいた微笑を浮かべるイリヤスフィールに、頭痛を憶えてアーチャーは目を細めた。
 勿論、イリヤスフィールの言う可能性など、あるわけが無い。
 いや、厳密に言えばその可能性は確かにゼロではあるまい。しかしそれを引き当てるなど、絶対の幸運をもつあの英雄王にすらできるかどうか。
 砂漠に落ちた砂一粒、などといったレベルではないのだ。何しろその確率といったら、無限分の1に等しい。
 そんなたまたまが起こると期待するようなイリヤスフィールではないだろう。ならば、その意図するところは。
 
「……わかっているのかね、君は。面白がっている場合ではないのだぞ? 今は一刻も早く、このふざけた場所から脱出すべきだろう」

「でもやっぱり他の世界にはどんなシロウやリンがいるのか、興味があるわ。こんな機会はめったにないもの」

 アーチャーは胸中で嘆息する。どうやら平行世界との通信は、イリヤスフィールの興味を強くそそったらしい。
 だが、その好奇心を容易く容認するわけにはいかない。
 
「イリヤスフィール。判っている筈だ、君には。ここではない何処かの誰かのことなど、知るべきではないと」

「もちろんわかってるわ。……大丈夫よアーチャー、ちょっと興味があるだけなんだから。本当にただ、それだけ」

 大丈夫、とイリヤスフィールはもう一度繰り返した。証明するように、少し胸を張る。
 
「だからいいでしょう? こんなの、ちょっとしたお遊びみたいなものだもの」

「…………」

 アーチャーは、手元に転がされていた携帯電話にちらと視線を向けた。軽く指先で触れると、ひび割れた液晶部分をなぞる。
 解析するまでもなく理解する。最早この投影は長く持たないだろう。せいぜい後一度使えるかどうかといったところか。
 ならば。
 
「……この投影はもうもたん」

 それを証明するように、アーチャーは携帯を持ち上げイリヤスフィールに見せた。しかし彼女はそれを見ようともしない。ただ、じっとアーチャーの顔を見上げていた。
 その視線を受けて、アーチャーは諦めたように声を絞り出す。

「……使えたとして、後一度。一度だけだ。それでいいな、イリヤスフィール」

「ええ」

 歓声にも似た同意に、アーチャーは渋面を浮かべた。イリヤスフィールに対してではない。彼女の我侭に付き合ってしまった、己の甘さに対してだった。
 そんな自己嫌悪を、少しでも和らげようというわけではないが。
 
「あ、アーチャー。最後なんだから、今度は私にかけさせて」

「駄目だ。君では何を喋るかわからんからな。聞くだけで我慢してくれ」

 イリヤスフィールの願いを、今度ははねつける。無体な姫君の願いを騎士が聞くのは、それが誰かの害にならない場合に限る。イリヤスフィールの好きに喋らせては、相手の世界にどんな影響が出るとも知れないのだ。

「それで、かける先は衛宮の家でいいのだな? 最も、何処にかけたところで繋がる先が選べるわけでもなかろうが」

 「なによそれー」とむくれながら電話を奪おうとするイリヤスフィールの頭を押さえながら、電話を持った手を彼女から若干遠ざけアーチャーは問う。しばらくじたばたともがいていたイリヤスフィールだったが、「もう!」とアーチャーの手を払いのけ暴れるのをやめ、頷く。

「……やれやれ」

 先刻よりも慣れた手つきでボタンを押していくアーチャーは、足を伸ばした姿勢のまま開脚し、僅かに上体を捻った。イリヤスフィールは不満顔のまま、開かれた両足の間で膝立ちになる。これならば、彼女も電話に耳を近付けられるだろう。
 
「…………」
 
 最後に通話ボタンを押し耳に当てる。やがて聞こえてくる、変わらぬ呼び出し音。一つ、二つと無意識のうちに音を数えていたアーチャーは、九回を数えた所で眉の間に浅い皺を刻んだ。
 
「……留守か? 」

 規則正しい電子音だけが支配する暗闇の中で、アーチャーはイリヤスフィールの顔を窺う。その白く小さな顔には、先程よりも不満の色が濃い。
 相手は留守だった、などという結果でイリヤスフィールは納得すまい。だが、アーチャーはもう一度電話をかけなおす気はなかった。そもそもここからかけた電話は、何処に繋がるのかわからないのだ。見ず知らずの他人が出たからといって、イリヤスフィールが満足する結果が出るまでかけ直しては、それこそきりが無い。
 呆気ない結末に、さてどうイリヤスフィールを説得するかと考え始めたアーチャーは。
 
「――――!」

 唐突に呼び出し音が途切れた事に、僅かに眉を跳ね上げた。見ればイリヤスフィールも、好奇心に顔を輝かせていく。
 山の天気のようなその変わりように、アーチャーは苦笑した。イリヤスフィールには悟られぬよう、こっそりと。そうして彼は、電話の相手の第一声を静かに待った。相手が誰か判明する前に、こちらから声を発するべきでは無いと判断したためである。
 
 
「…………」

『…………』

「…………?」

 僅かの後、小首を傾げたのはイリヤスフィールだった。電話の相手は、一言も声を発しなかった。名乗りもしないし、もしもしの一言も無い。より強く耳を電話に押し当ててみても結果は変わらない。聞こえてくるのは、ほんのかすかな生活音のようなものだけだ。 
「…………」

 その奇妙な沈黙の中で、しかしアーチャーの耳はかすかな音を拾い上げていた。イリヤスフィールに聞き取れぬのも無理は無い。サーヴァントである彼の聴力だからこそ聞き取れる、小さな音である。
 それは呼吸音。しかし正常なものではない。
 
(――――病人?)

 それは、今にも途絶えてしまいそうな、浅く短い音だった。
 
 
『――――あ』

「――――もしもし?」

 一瞬、本当に僅かな呻き声が届くと同時、アーチャーはそう声をかけていた。
 同時に、この電話が無意味であったことを強く自覚する。
 
 今電話に出ているのは――――まったくの、見知らぬ他人だ。
 
 その呻き声だけで、全く覚えの無い声だということが解かる。相手は男。あとわかるのは、それなりに歳を重ねた相手らしいということか。
 だから。
 
 
 
『――――はい。衛宮です』



「――――な、に? 」



 それは本当に、全く予期せぬ言葉だった。聞き覚えの無い声で告げられた名前は、そのか細さと裏腹に、鋭くアーチャーの鼓膜を刺した。
 衛宮。確かに相手の男はそう口にした。アーチャーの、知らない男が。
 偶々同姓の、赤の他人の家に電話が繋がった――――この箱の中で、それが一体どれほどの確率なのか知る術など無論無い。あるいは先刻衛宮士郎との会話の際勘違いしたように、誰かが家人の代わりに電話に出た?
 いずれにせよ、知らぬ声だった。その声が――――
 
 
 
『…………どちら様で……しょう、か? 』



 その声が、その言葉が。
 
 
 
「――――あ」




 こんなにも、彼の胸をざわめかせるのは、どうしてなのか。


 
 
 
「あ、ああ。失礼。そちらに士郎――――衛宮士郎、は――――」

 まともな会話の組み立てすらできず、気がつけばアーチャーはそう口にしていた。同時に、たった一つのことを強く理解する。
  
 『……? 失礼ですが、貴方は?』
 
 ――――この電話を、今すぐに切らなくてはならない。
 それは直感だった。磨耗しきった自己。忘れてしまった記憶。その中で――――それでも憶えている、数少ないもの。
 
 
 
 共に過ごした時のことなど忘れてしまった。声も、仕草も、全て忘れてしまった。
 
 
 
 けれど、ああ、そうだ。焦げた臭いと、煙を固めたような曇天の中、こちらを見下ろす彼の顔だけは覚えていた。
 
 
 
 記憶の底に沈んでいた光景で、彼は。



『うちの士郎に……どういった御用でしょう? 』



 彼は、あの時、何を呟いていたのだったか――――



「――――もう! 全然聞こえない!」

「――――!」

 それは、普段のアーチャーであればありえないミスだったろう。小さく擦れ、聞き取れない電話の会話に焦れたイリヤスフィールは、さっとアーチャーの手から電話を掠め取っていた。
 一瞬、意識の空白から回復したアーチャーは、電話を耳に当てるイリヤスフィールに向けて、叫ぶ。
 
 
 それは、万感を込めた文字通りの絶叫だった。
 
 
「ッッ!よせ!イリヤスフィ――――」













 ――――ここではない何処かの誰かのことなど、知るべきではない。そんなことは、分かっていたはずだった。




「もしもーし。シロウ?リン?それとも――――」




 選べなかったもの。手に入れられなかったもの。失われてしまったもの。そんなものが当たり前のように存在する世界を知る事は。


 



『……イリヤス……フィール? 』





 時として、こんなにも。






「キ、リ……ツグ――――」






人を、不幸にする、魔法なのだから。







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この記事のコメント
おぉ~、まさかこの人が出てくるとは思いませんでした。
2009-03-08 Sun 22:35 | URL | 元 #/02qLiNA[ 内容変更] | top↑
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