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胡桃3
2009-01-28 Wed 23:24
 当日は、よく晴れた気持ちの良い日ではあった。僅かな肌寒さすら、気を引き締めるための心地よさを伴っている。時間は正午過ぎ、およそ丸一日をかけて完璧な迎撃準備を整えたアーチャーは、余裕を持ってその時を待っていた。
 意外な事に、イリヤスフィールは徒歩で遠坂邸に訪れた。てっきり黒塗りの高級車で乗り付けてくると思っていたアーチャーは、この事実に僅かに面食らう。
 物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回して歩むイリヤスフィールの姿は、やけに楽しげであった。

「よく来たな。歓迎しよう、イリヤスフィール」 

「お招きありがとう、アーチャー。とても楽しみにしていました。……リンが居ないのは、残念だけれど」

 イリヤスフィールが遠坂邸の門に到着するのと同時、アーチャーは実体化し芝居めいた動作で一礼する。対してイリフィールもまたスカートの端を持ち上げ、優雅に礼をした。
 言葉とは裏腹に、凛の不在を残念がっている様子はまるで見受けられない。むしろ彼女は、それを面白がっている節すらある。

「期待に沿えるよう、努力しよう」

 さらりと受け流し、アーチャー再び優雅な仕草で玄関を指し示した。鷹揚に頷き歩みだすイリヤフィールに並び、ふと先刻疑問に思ったことを彼は口にする。

「ところでまさかとは思うが、君はあの森から歩いてきたのかね? 」

「馬鹿ね、アーチャー。もちろん車よ。歩いてきたのは、この近くのパーキングからよ」

 言って、イリヤスフィールはスカートのポケットに手を入れる。取り出されたのは、雪の結晶を象ったキーホルダーである。
 ゆらゆらと揺れるキーを目で追いながらアーチャーは、

「いつもの使用人はどうした。一人や二人もてなす相手が増えたところで、こちらとしてはかまわんよ」

「今日は私1人よ。せっかく綺麗なものを見るのに、口うるさいセラが居たら台無しになっちゃう」

 「リズぐらいなら連れて来て見せてあげてもよかったかなー」などと、当人の片割れが聞いたら泣き出しそうなことをイリヤスフィールは呟いた。
 そんな彼女を前にアーチャーは眉をしかめる。
 アインツベルンのホムンクルス達。影のようにイリヤスフィールに追従する二人のメイドは、近くに止めたという車の中で待機しているのだと思い込んだが。

「イリヤスフィール。君は先程、車で来たと言ったな」

「ええ」

「……まさか、その車を運転してきたのは」

「? そんなの、私に決まっているじゃない」

 変なアーチャー、とイリヤスフィールは小首を傾げた。まるで邪気の無い彼女の態度に、アーチャーは眉間に刻まれた皺を指でなぞる。
 その仕草が癇に障ったのか、イリヤスフィールは唇を尖らせアーチャーに詰め寄った。

「何よ。私はもう立派なレディなんだから。この国のホーリツだって、お酒も呑めるし、結婚もできるわ」

 成る程、間違ってはいまい。彼女がこの国で通用する自動車免許を持っているのか知らないが、少なくとも飲酒に免許はいらない。生を重ねた年月を思えば、イリヤスフィールは確かに立派なレディである。

「……精々、人目につかんようにしてくれたまえ」

 とはいえ彼女の外見は、幼女のそれだ。車も、酒も、それを嗜む彼女の姿は想像するだにシュールだった。結婚に至っては犯罪的ですらある。無論裁かれる対象は、相手の男であるが。
 まあ、それはアーチャーの関知すべきことではなかった。彼はむくれはじめるイリヤスフィールを宥めすかすように作り笑いを浮かべると。

「では行こうか、レディ。何時までもここにいては、身体を冷やす」

 大小二つの背中が、洋館の中へと消えていく。

 その身に起こる不可思議な出来事を、彼等は無論、知る由も無かった。
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胡桃2
2009-01-25 Sun 00:15
 有体に言えば。
 その日のアーチャーの仕事は、遠坂邸を訪れるイリヤスフィールを出迎えるための、ホスト役を務めることだった。


 繰り返すが、ことの起こりは第二魔法の実験の失敗による、アイツベルン城の爆発損壊という遠坂家当主曰く「ちょっとしたミス」によるものだった。成る程、確かにそれはちょっとしたミスだったのだろうとアーチャーも思う。何しろ人的被害は零に等しかった。ならばそれは、大したことではない。そうとでも思わねば、やっていられない。

『宝石箱を、見せてちょうだい』

 居城を破壊されたイリヤスフィールのその要求は、宝石魔術師である遠坂にとって、自己の研究を開示するに等しい。しかし断れるはずも無かった。

「まあ、仕方なかろう。これに懲りて、君も軽挙な行動は慎むことだ」

「……何よ、他人事みたいに」
 
 実際この時点で、アーチャーにとってそれは完全な他人事だった。テーブルに突っ伏して頭を抱えるマスターを横目に、存分に紅茶の香りを愉しんでみせる。
 ――――油断が無かった、といえば嘘になる。
 そもそも、どうして彼女がわざわざ自分を呼び出してまで、こんな醜態を見せているのかに気付くべきだったのだ。彼ならば。

「明日だったか、イリヤスフィールが来るのは。それで凛、わざわざ私を呼び出したのは、よもや歓迎の準備を手伝えというのではあるまい?」

「……いいえ。その通りよアーチャー」

 ゆらり、と。
 無骨な手に持たれたティーカップに、僅かな波が生じた。

「――――どういうことかね? 凛」

「……呼び出しをくらったのよ」

 ようやく、少しは気持ちの切り替えができたのだろう。
 優雅な仕草で湯気の立つカップを手に取り、彼女は言った。

「ちょっと向こうで問題が起こったらしくてね。とにかく戻って来い、の一言よ。それも早急にね」

「時計塔か」

「そ」と頷きカップを傾ける彼女の姿に、アーチャーの顔が曇る。成る程、遅まきながら話の流れが読めた。

「日をずらす、というわけにはいかんのだろうね。やはり」

「無理よ、もう手配は済んでるから私は直ぐにでもあっちにいかなくちゃいけないし――――これ以上、イリヤスフィールに貸しを作るわけにも、先延ばしにするわけにもいかない」

 だから、イリヤスフィールを迎えるホスト役を頼みたいのだ、と彼女は言った。
 無論、ただ単純に出迎えろ、というのではない。尋ねてきたイリヤスフィールに対し、扉を空け、茶の一杯でも振る舞い、宝石箱を見せる。そんな事であれば、彼女は弟子である士郎にでも頼めば済む事だ。師が不在であるというのなら、客の相手をするのは弟子の義務であろう。
 だが。

「ヤツでは、無理だろうな。仮にイリヤスフィールが何か仕掛けていったとしても、愚鈍なあの男が気付くとは思えん」

「――――そこまで言わないけどね。けどなんだかんだで、士郎はイリヤスフィールに甘いから」

 何処か不機嫌そうに言う凛に、「あれは甘いのではなく頭が上がらんだけだ」とアーチャーは訂正を加える。
 ――――他の魔術師を工房に招き入れるなど、本来は決してありえない事態だ。
 そのありえない事態が起こったのなら、工房の主は細心の注意を払ってその客の監視をせねばならない。叶うのなら、ドアノブ一つ触らせてはならないし、髪の毛一本残させてはならない。
 そして同時に、望まぬ事とはいえ自ら招き入れた以上、客に万が一のことがあってはならない。

「まあ、イリヤスフィールがそんなことをするとは思えないけど。それでも余計な場所に入ってもらっちゃ困るし、入れさせやしない」

 魔術師の工房は、要塞である。少なくとも、そうであることが求められている。侵入者を防ぎ、退け、あるいは殲滅させるための防御機能が、この屋敷にも至るところに仕掛けられていた。万一余計な所に入られて、傷でもつけさせてしまっては叶わない。
 それは、招いた者としての沽券にかかわることだ。
 つまりは完璧な歓待をしつつ、余計なことはさせずに速やかに気持ちよくお帰り願ってもらいなさいと要求しているのだ、彼女は。

「……まったく、君の家の家訓には恐れ入る」

 優雅たれ、ということも。あるいは肝心な所でポカをやらかすということにも。
 それを皮肉と取ったのか、苦い薬を飲むように彼女は紅茶を一口飲んだ。

「それで、頼まれてくれるの? アーチャー」

「気は乗らんがね。まあ、仕方あるまい。……だが凛、君は一つ、大事な事を忘れていないだろうね? 」

「――――何? 」

 首を傾げる彼女の姿に、アーチャーは口の端を僅かに釣り上げた。

「結局、君は誰かに対する貸しが増えるということだ。相手はイリヤスフィールでなく、私だがね。今さら君に、私達の関係を説くつもりはないが」

「……わかってる。今回の貸しは必ず返すわ。アーチャー」

「ならばいい。楽しみにしていよう。だが、その言葉を後悔することにならねば良いが」

 憶えておくといい、と。
 アーチャーはその精悍な顔に、シニカルな笑みを浮かべた。





「負債というものは、何時の時代も多数の人間を相手に作るほうが、還し難くなるものだ」





「……ふん。たっぷり熨斗つけて返してやるんだから」






 こうして。
 鞄一つを手に倫敦へと向かう彼女を見送ったアーチャーは、

「む。こんな所にくすみが――」

 まずは屋敷の手入れから、始める事にした。
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ゼロ効果
2009-01-20 Tue 21:42
 遅ればせながら(斜め読みですが)Fate/ZEROを完読したので何か書きたいな、と。
 とはいえネタはそれこそン年前から何となく考えていたもので、ゼロ成分はほとんど果汁1%程度です。
 予定としては短編程度に納まるハズですので、よろしければお付き合いください。では。
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胡桃1
2009-01-20 Tue 21:33




 選ばなかった。




 彼の、彼女に対する罪は、その一言に尽きた。















「…………?」

 午睡を覚ましたのは、軽やかなベルの音だった。ぼんやりとしたまま身を起こし、思考を淀ませる鈍痛に溜息を洩らす。
 
「…………ん」

 口の中が、粘つく。ただそれだけのことで、生きていることが辛くなる。それでものろのろと身を起こし、しがみつくようにして襖を開けた。


 ――――立つことにすら苦痛を感じるようになったのは、果たして何時だったろう。


「――――ああ」

 急き立てるようになり続けるベルの音に返事をして、身体を引きずっていく。一歩進むたびに、関節が悲鳴を上げていた。その痛みは、さながら身体の芯をゆっくりと鑢で削られているかのよう。
 歳をとったのだと、そう自分を誤魔化し続けるのにも無理があった。全身を襲う倦怠感と鈍痛は、嫌でも心と身体がまともでないことを想起させる。
 ぐらぐらと世界が揺れていた。その中で、鼓膜を突く甲高い音だけが酷く現実味を帯びていた。だから歩いた。光の無い盲人のように壁に手をつき、必死の思いで足を引き摺り、受話器を上げる。

「――――あ」

 暗転。不快な音が止んだことに安堵して、思わず意識が断ち切れそうになる。
 甘美な誘惑だった。立つよりは、座る方が楽だ。座るよりは、倒れる方がマシだ。
 ああ、いっそこのままもう一度眠りにつくことができたのなら――――どんなに楽だろう。

『――――もしもし?』

 何処か遠くで、そんな声が聞こえた。世界はもう揺れていない。ただ、ぐるぐると廻っていた。カタツムリの甲羅のような世界の中で、耳慣れない男の声が、脳髄を泡立たせる。

「――――はい」

 困惑したような受話器の向こう側に、何とか答えを返し。



「衛宮です」



 血を吐くように、そう口にした。









 胡桃








 ことの始まりが何だったのかといえば、それは間違いなく彼のマスターのミスによるものだった。とはいえマスターは決してそうとは認めまい。ならばいっそ暴走と言ってやるのが相応しかろうと、彼は深く溜息をつく。

「ん~~~!」

 それはまあ、良かろう。いや、諦めるしかなかろう。全てを完璧にこなすように見せて――――実際こなして見せて、ここぞというところで信じられないポカをやらかすのが、彼のマスターである。それは最早呪いであり、宿命であり、運命ですらあった。それはもうどれほど苦かろうと、飲み込む以外に方法は無い。
 
「ん~~~!」

 彼にとって問題なのは、マスターの犯したあれやこれやの大ポカの尻拭いを、何故己がやらなければならないのか、ということ。サーヴァント。しかしそう呼ばれる存在である彼は、断じてマスターの従者ではありえなかった。冬木の名を関するこの町において、魔術師のマスターとそのサーヴァントの関係は、どこまで行っても対等であらねばならない。
 無論、一部の例外はある。だが、少なくとも聖杯戦争が過日となった今、彼と彼のマスターの関係は、そうであるべきだった。そこの所をマスター――――遠坂凛ほどの魔術師が、弁えていないはずもなかろうが。

「ん~~~!」
「……やれやれ」

 そうして再びアーチャーは、深く溜息をつく。今更溜息をついたくらいで逃げる幸せがあるなどと、思ってはいない。赤銅色に焼けた肌、色の抜け落ちくすんだ髪の本数は、そのまま彼の身に降りかかった不幸の数だった。それがまた、今日1つ増えた。
 不平を口にはしない。どれほど言葉にしたところで、それは状況を打破しない。だが不満はあった。不満は必要だ、それは現状を変えるための活力であり、ある意味で彼の骨子の根幹をなすものなのだから。
 しかし胸を苛立たせるそれは、決してそんな上等なものではなく。

「――――本来なら、これはヤツの役割だろう」

 そんな益体もない、恨み言にも似た愚痴だった。
 だが、言わずにはいられない。この世界の遠坂凛に振り回されるのは、この世界の衛宮士郎でなくてはならない。だってそうでなければ――――釣り合いが取れないではないか。

「ん~~~!」

 胸中で、祈りにも似た心持で、呟く。
 ――――自分はもう、かつて十分に彼女に振り回されたはずだ、と。

 今の彼の状況は、かつての自分(エミヤシロウ)の代理か、補佐か。その挙句がこの状況というのなら、不満の1つも出ようというものだ。
 
「ん~~~!」

「…………」

 とはいえ、不満に溺れるわけにはいかない。不満を抱いたなら、それを解決する方法を模索せねばならない。
 なによりも。

「ん~~~!」


 顔を真っ赤にして“蓋”を持ち上げようとする彼女の姿は、どうにも精神によろしくない。
 寝そべる己の腹の上で唸り続ける少女へと、





「……そろそろ諦めたらどうかね? イリヤスフィール」

「――――ん!」





 暗く、狭い宝箱の中。
 互いの息遣いすら感じられるほどの距離で。
 不機嫌そうにむくれるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの顔を見たアーチャーは、三度目の溜息をついた。
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